31人が本棚に入れています
本棚に追加
鈴木は涼一に断りをいれることもなく歩き出した。方向は公園の入り口の方だ。涼一もすぐに後を追いかけた。
隣に並ぶとすぐ、鈴木は続けた。
「アイツ、いつも昼頃まではあの辺りでぐだぐだしてて、十二時になるとベンチに行って涼ちゃんを待ってんだ」
「そうなんですか。――あの、そのティッシュは?」
「仏さん」
ごま塩頭ならぬごま塩髭が少し先の方を示す。しかし涼一には意味が分からない。ようやく理解したのは、鈴木が歩道に落ちた蝉の死骸の前にしゃがみ込んだときだ。
「蝉ですか」
「ああ。蝉だってこんな固ぇ地面より柔らかい土の上で死にたいだろうよ」
「優しいんですね」
「よせよ。そんなんじゃねえっての」
見るからに肌理の粗いティッシュでひっくり返った蝉を包み、鈴木は体を起こした。 「同病類哀れむ……ってな」
聞こえてきた呟きの意味は分からなかった。
「公園の入り口にでも埋めてやるかな」
「鈴木さんはお家に帰るところですか?」
「いや。俺は仏さんの埋葬が終わったらまた出かけるよ。涼ちゃんはゆっくりして行きな」
ということは、公園の入り口までは一緒に歩くということだ。
入り口はもう見えている。ほんの少しの間だが、せっかくの機会だから思い切って訊ねてみた。
「真崎さんを公園に連れてきたのって鈴木さんなんですよね」
最初のコメントを投稿しよう!