悪は去って

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 その思いに応えてやりたい。先輩として正しく導いてやりたい。  それが出来なければ、私は引退前にきっと大きな後悔を残してこの世界を去ることになるだろう。 「どうしてですか!?」  オファーを受けるべきだというこちらの言葉に川岸君は驚いた表情を見せた。 「俳優というのは様々な仕事をこなさなければならない。私もかっこいい役や情けない役までいろいろ演じてきた」 「でも、いきなりこんな正反対の役をやれなんて。無理に慣れないキャラを演じるよりも僕は……」 「爽やかで、真っすぐな人物だけを演じていたいのか? その道は最初こそ楽だが後はずっと苦しむことになるぞ」 「あなただって悪役をずっと演じて来たんじゃないんですか!?」  それは鋭い指摘であり、また事実でもある。  彼の言う通り私は悪役以外で大した役を演じてきたことはない。だからこそ、この一本道の辛さを誰よりも理解しているのだ。 「そうだとも。才能の無い私にはこの道しか残されていなかったから、だから自分の武器を磨いて磨いて磨き上げてどうにか今日まで俳優を続けてこられたんだ」 「才能が無いなんて、僕はそんな意味で言ったんじゃ」 「だけど君は違う。自分では気づいていないかも知れないが、川岸君の演技には幅がある」     
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