悪は去って

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 スーパーレッドである赤羽翔馬は最終回までに様々な表情を視聴者に見せてきた。  笑顔溢れる幸せの顔、大事な友を亡くし涙する顔、怒りに我を忘れる顔。そのどれをも川岸颯太は見事に演じ切って見せたのだ。  台本から人物像を読み取り、成りきる。  俳優として当たり前の事だがそれが一番難しい。  本音を言えば私ももっと色々な役に挑戦したかった。しかし生まれ持ったこの顔と声のせいで諦めざるを得なかった。いくら挑戦しようとしても事務所とマネージャーから止められてオーディションという勝負の舞台にすら立てなかったのだ。  だが川岸君は違う。才能と運がある。  もしもここで仕事を断れば、彼はそのまま自分の可能性を狭めて一つのカテゴリしか演じられないつまらない役者になってしまうだろう。  そして一生悩み、嘆き続けるのだ。自分の才能の無さを。 「君には、私と同じ苦しみを味わってほしくない」  そうやって本心から声をかけても、川岸君は無言のまま項垂れるだけだった。  このオファーを受けるか、受けないかで今後の俳優人生は大きく変わってくる。  しかし普通の言葉を投げかけても悩む彼の心には届かない。再び前を向かせるためには共感させ感動させる台詞が必要だ。     
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