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「……例え……どれだけ傷ついたって、何度失敗したっていい……。俺は……俺は自分らしく生きられるこの世界が大好きだからだ……!」
演技が好きで、俳優をしている自分が好きで、この業界を愛していること。
ようやく彼は自分の大切な武器を思い出すことが出来た。
「良い言葉だなぁ。赤羽翔馬の台詞って」
「それは君の言葉だ。生涯胸に刻んでおくといい」
頬に一筋の涙を流した若者の肩を叩き、私は休憩を終え現場へと戻る。
最後のアクションシーンは老骨に堪えたが、無事にやり遂げて私はクランクアップした。
数週間後。
俳優を引退した私は日曜の朝にテレビを点けてとある特撮番組のエンディングを見ていた。
画面の中ではエンドロールと共に1人の青年が笑顔で街を歩いている。
悪は去って、ヒーローから普通の人間へと戻った男は新たな夢に向かって大きな一歩を踏み出していた。
<了>
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