2人が本棚に入れています
本棚に追加
「何故貴様は戦い続ける。ここで膝を折ろうと誰からも非難はされぬだろう。それなのに何故この世界に拘り、立ち上がろうとするのだ?」
「例えどれだけ傷ついたって、何度失敗したっていい。俺は自分らしく生きられるこの世界が大好きだからだ!」
強く、冷たい風が2人の間を吹き抜けていく。互いににらみ合い拳は強く握られている。
「だから俺はこれからもこの世界で戦う。この世界で生きていくために」
もはや戦いは避けられない。どちらかが相手にとどめをを刺すまで。
場の緊張感は最大まで増し、いよいよ最後の戦いが始まろうとしていた。
その時。
「はいカットォーッ! オッケー!」
撮影監督の満足げな声と叩かれたメガホンの音を耳にした瞬間、張り詰めていた空気が一気に解かれる。
「菊川さん、お疲れ様です」
駆け寄ってきたメイクアシスタントの若い女の子からハンドタオルと飲料水の入ったペットボトルを受け取った瞬間、役に入り切っていた私の意識は侵略者バドラーから俳優の菊川栄一へと戻っていった。
「ああ、ありがとう」
重く熱の籠る鎧姿で流れた汗を拭き、渇いた喉を飲料水で潤すとすぐさま監督席近くに設置されたテントの中へと入る。
今撮れたばかりの映像を確認するためだ。
最初のコメントを投稿しよう!