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休憩時間はいつも誰とも話さず、出来るだけ目立たずに過ごしている。
ベテラン俳優というのは自分が望んでいなくても何かと周りに気を使わせてしまうものだ。ただでさえ人相の悪い私が近くにいれば尚更スタッフはのんびりと休憩を過ごせなくなってしまう。
だから私はいつも現場の隅に行き、時間が過ぎるのを静かに待つ。用具置き場には大抵パイプ椅子が数脚置いてあるのでその中の一つに腰をかけた。
「もうすぐクランクアップか……」
おもむろに台本を開いてこの後のストーリーと台詞を確認してみると、バドラーに残された出番は残り僅かだった。
何度倒れても立ち上がる赤羽翔馬の強い心と勇気で再び輝きを取り戻した神秘の腕輪は彼に最後の変身パワーを授ける。
再びスーパーレッドへと姿を変えた翔馬は凄まじい力でバドラーを倒す。
悪の侵略者は最後にお決まりの台詞を口にして消滅するのだった。
「覚えていろ、か。はは、今まで何回この台詞言ったかな」
私は苦笑しながら目を閉じて昔を思い出す。初めてこの負け惜しみの言葉を口にしたのは確か、デビュー作だったはずだ。
「懐かしいな。仮面セイバー……その悪役のデビル王子」
菊川栄一、20歳の冬。
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