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まだ若々しかった頃の私は子供の時からの夢だった特撮ヒーローになる為にひたすら演技のレッスンを重ね、満を持してオーディションを受けた。
結果は惨敗。会場にいた監督から「その顔じゃヒーローは無理だ」とはっきり告げられてしまう。
しかし、物語の中盤で登場する敵幹部のデビル王子という役のイメージにはピッタリだったらしく私は迷った挙句オファーを受けることにした。
生まれついての人相の悪さと下っ腹に響く様な声の低さをフルに活かして演じたデビル王子は初登場時から絶大なインパクトを放ち、当時の子供たちの頭にその存在感を植え付けた。
その時私は、悪役というキャラクターの重要さと演じる事への楽しさを始めて学び、そして以降は悪役のオーディションを受けまくる事となる。
「そして気が付けば、助演男優賞も取って悪の大御所なんて呼ばれる様になっちまった」
銀行強盗、下っ端ヤクザ、詐欺師に嫌味な上司。迷惑な隣人から悪徳企業の社長まで、本当に様々な黒い仮面をこの顔に重ねてきたものだ。
これまで歩んできた自分の俳優人生に後悔はない。しかし、もしも欲を言ってもいいのならば。
「やっぱりやってみたかったな。ヒーロー役を」
そんな事を口走ってしまったせいだろうか。奥のテントから出てきたヒーローがこちらを見つけて小走りで近づいてきた。
「菊川さん、お疲れ様です!」
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