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「時間、あんまりないし食べようか」
「う、うん。美味しそう! いただきます! 」
そう言って手を合わせて、食べ始めた。
「おいしー……」ちょっといいランチ最高!
「うん、良かった」
大輔はあんまり食べていない。
「そっちの、一口ちょうだい」
「え、あ、はは。どうぞ」
そう言って皿を寄せてくれる。
「あ、こっちも美味しい」
「佳子……」
「んー? 」
「来週の誕生日、一緒に祝ってやれないわ」
「あー、いいよ、いいよ。そんなの。今さら気にしないよ」
料理に集中しながら返事をする。
「29歳……だろ? 」
「え、それ言う?……そうだよ」
「これ以上、お前の時間……貰えない」
「どういう事? 」
ここでやっと、私は大輔の方を意図を読み取ろうと顔を上げた。
「別れよう」
カチャン……フォークが手から滑り落ちた。
「え……? 」
「俺さ、転勤決まって嬉しかったんだ。やったーっ! って内心ガッツポーズ。迷わず『はい』って返事したよ。『頑張ります』って」
大輔は目を伏せて続けた。
「上司がさ……個人的に早めに教えてくれたんだ」
「彼女、連れて行くんだろって……そうなると、彼女も準備が必要だろ? って……」
途切れ途切れ、話す大輔。
「舞い上がってたとはいえ、一緒に行く選択肢がなかった。俺に」
大輔の手が……少し、手が震えている。
「『いえ、彼女も仕事がありますし……』って、後付けみたいに言い訳した。
『彼女もお前もいい年だろ?』そう言われてやっと気づいたよ。俺の勝手な都合に、佳子巻き込めない」
大輔の伏せられた目がゆっくりと上げられ、私と視線を合わせた。
「今、お前と話して分かったよ。佳子にも、俺と来る選択肢、なかったよな……」
大輔は苦しそうに顔を歪めた。
「いつ結婚できるかわからない俺、待たせられないわ。このままずーっと一緒にいて、いつかはって思ってた」
「……あ……」
私がようやく出せた声は、たった一文字だった。確かに、確かにそうだ……。そう言われてもなお、『ついていく! 』その一言が言えなかった……。
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