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「結城さんは、恋人いらっしゃるんですか? 」
おずおずと尋ねる。そういえば、彼とプライベートな話をするのは初めてだ。ベールに包まれた、想像すら出来ない彼のプライベートをのぞいてみたくなった。
「いませんよ」
「つくらないんですか? 」
“つくらない”と聞いたのは、彼ほどのお方に恋人がいないという状況は、望んでその状況にいるということに他ならないからだ。モテウェイまっしぐらだろうに。
「特に意識はしてませんが、社会人になってからは……無いに等しいですね」
暗めの照明でも、はっきりとわかるほどの長い睫毛が作り出す陰影に溜息が出そうになる。ゆっくりと伏せた目を上げこちらを見られると、もうこのまま石になるんじゃないかと思った。
ふ……
ほんの少し、彼の表情が和らぐ。
「あー……、言い寄られても受け入れないの? 」
麗佳さんの質問に、優しさを含ませたままの紳士なメデューサは
「お試しで……とか、1週間でいいので……とか、友人として……とか。その、正規の告白がなくてですね。いつ付き合ったのか、いつ別れたのか、付き合っていたのかも……」
そら、この人に正規の告白ってダメ元でも難しい。
「じゃあ、付き合ってってはっきり言われたら付き合うの? 」麗佳さんが尋ねた。
「時と場合に寄りますが……」
「あー、結城さんのその感じ……彼女たちの気持ちわかるわぁ」
るなちゃんが続ける。
「自爆ってやつですよ」
穏やかではない言葉が飛び出した。
メデューサと若き毒舌エンジェルの会話に、脳内で石に変えられていた私は急いで戻ってきた。
「自爆……? 」
「そうですよ! どうせ結城さんはずーっと受け身で自分から彼女たちへなーんにもアクションしなかったんでしょ!? 彼女たちはOKされると思ってなかっただろうし、OKされた時が幸せのピークで……、後はその打っても響かない結城さんを前に自爆していったんですよ」
口元についたソースを可愛らしく指先で拭い、そう言い放った。
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