第4話 side yoshiko

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第4話 side yoshiko

 ふわりと鼻先にコーヒーのいい香りが届く。夜遅くまで開いている、セルフのカフェ。  あ……コーヒー飲みたい。  でも、家まで我慢だな。チラリと見て、通り過ぎる。 「コーヒーでも、飲んでいきませんか? 」    一瞬、心を読まれたかと思った。 「飲みたいです! 」  思わず、元気いっぱいの声が出た。  ……ふ  でたよ、結城さんの“ふ”  確かに、びっくりするほど元気な声でちゃったけど。 「あ、でも遅いですし……ご迷惑じゃ……」 「誘ったのは、私ですよ」  そう言うと、スッとドアを開けて下さった。  な、なんてジェントルマン (2回目)  路上に面したカウンタータイプの席。その一番端に先に座るように促された。 「何を飲まれますか? 」 「え、あ、いえ、私が……」  そう言いかけると、微笑まれ、再度同じ質問をされる。 「あ、じゃあ……ホットのラテを、ショートサイズで」  そう伝えると、彼はレジに向かった。 「お嫌いでなければ」  そう言って、ラテとチョコチップの入ったクッキーを乗せたトレーを私の前に置いた。 「あ、ありがとうございます! 大好きなんです、コレ。あ、お、お金……」  そう言うと、またふっと笑って外へと視線を移した。  これ以上のやりとりは必要ないということだろう。 「ありがとうございます。いただきます」  嬉しい、ちょっと甘い物食べたかった。  あー、でもこんな時間に太るかしら。  失恋したのに太るとか……  脳内で、形だけの葛藤をして一口分に割って口に入れる。  コーヒーと素晴らしいハーモニー。  コーヒーにこのクッキーを最初に合わせた人、天才か。  幸せすぎて、いつの間にか笑っていたらしい……。  職場で泣くくせに、クッキーで幸せを感じる。何とも単純だな。  それに……この隣の人を見ながらの…… 「美味しいですか? 」  こちらを向かれて、ハッとなる。  盗み見、バレたのかと思わず目を逸らす。  も、もう少しアルコール濃度上げとけば良かった……。無意味な後悔。  街灯の灯りも差し込むこの席で、外を眺める彼の顔に、時折通る人が光を遮るように影をつくり、すぐにまた光が差す。  静かな時間だった。
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