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昼休憩間近。カタカタと小刻みに揺れている。
「ゆれるなよ。お前、それ、揺れハラだぞ」
吉良が隣の席の震源地に言った。
「すまん、もう気になって、気になって。……よし! 行くぞ! 」
時間ちょうど。1日持ち越された報告に、痺れを切らしている。誰もが気にする程に、あの日の彼女の涙は衝撃だった。彼女と一番付き合いが長い大友でさえ。
財布と携帯だけを持って、吉良と俺を押し出すように連れ出した。大柄の男3人が急ぐ様はずいぶん滑稽だろうが、大友に足を緩める気配はない。
会社から少し離れた定食屋を選んだのは、社内の人と会わないよう配慮しての事だろう。
「日替わり3つ! 」
メニューを選ぶ事も叶わず、席につくなり早々に
「「で? 」」
2人に詰め寄られる。
「彼女と約束をした。……結婚の」
「「はぁ? 」」
水を一口飲んで続ける
「まぁ……実際にすることは……ないだろう」
「お前……下手くそか! 」
吉良はイライラした様子で言った。
「意味、わかんねぇ」
大友は呆れた様子だ。
「あの日の昼休み、彼女は別れを告げられたらしい。……3年付き合った恋人に」
人のプライベートな話を勝手に話して良いものかと憚られたが、説明が終わるまで食べることも許されないだろう。
「あ……それで……」
「午後から急に様子が……違ったもんな」
「昼休みにかぁ……キツイな」
二人とも、彼女の様子の変化には気づいていたようだ。
「あぁ。それで……あの日……30歳までに結婚したかったって……言ってたんだ」
「あぁ、女性は、そんなもんなのかね」
「いくつだっけ? ……彼女」
「もうすぐ、29」
「もうすぐ? ってことは……誕生日前に? 」
「ああ」
「あー……」
「今の年で1人になったのが……辛かったみたいだな。このままずっと、1人かもって……」
「大丈夫だろ。彼女なら」
「俺もそう思う」
二人と俺も同意見だ。彼女なら大丈夫。だからこそ、約束をしたのだ。
「だから、30になっても相手ができなければ。という、目先の不安を取り除く約束をしただけだ。ま、保険みたいなもんだな」
「でも、お前……もし、彼女に相手できなかったらどうすんの? 」
確かに……保険だって、実際に使う事はある。むしろその為に保険に入る。
「する」
吉良の質問に即答した。
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