番外編その3 それから……

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家に帰ると 「おか、おかえりなさい」  出迎えてくれた彼女は……ひきつった笑顔。 「……ただいま。……何? 」 「ああ、いや……由美元気だったよ」 「そっか、良かった。楽しかった? 」 「うん! あ、そうそうビッグニュース!! 聞いてよ!  由美がさぁ……」  彼女はそう言うと、すぐに、言葉を止めた。 「うん、何? 」 「え、いや……あ! そうだ! パ、パパパパン! 買いに行ってくる! 」  ……パパパパン?  せっかく早めに帰って来たのに、彼女は俺から逃げるようにまた出かけてしまった。ビッグニュースが何なのかも、教えて貰えずに。まぁ、パン屋なら……すぐ帰るだろうから。  キッチンを見ると……パン……買わなくてもあるけど?何かがおかしい。  せいぜい15分くらいで帰ってくるだろう彼女は、倍以上の時間が経っても戻っては来なかった。  何だ?様子もおかしかったし、心配になって、俺も家を出た。  幸い彼女は、パン屋のすぐ側で座っていた。もうすぐ日も暮れる。だから……こういうの止めろと、以前も注意した。  俺に気づくと、分かりやすく……目を泳がせる。ああ、何かあったのか。俺から逃げたい、何かが?俺も横に腰かけて、彼女の顔を窺う。仲良くやってる。彼女が、俺の家に越して来てから、穏やかに暮らしている。そう思っていた。俺は、だけど。 「帰ろう、暗くなるし。家で聞くから」 「あ、そうだね」  そうだね?……やはり、何かがあったわけだ。短い距離だけど、パンの袋を彼女の手から取って、空いた手を取った。そこに、拒否は無かったことに、少しばかり安堵する。  その手にこれほど感謝したことはない。強い力がかかり、彼女が足を滑らせたことに反射的に力を込めた。転けないように。  転けかけた彼女の口から 「赤ちゃん!! 」  咄嗟にこの言葉が出て、繋いでない方の手で庇うように下腹をおさえている。  固まる彼女。俺も……動けなかった。事を理解するのに、数秒。  ……これは……。
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