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正反対だな。
誰かと楽しそうに笑う彼女を見て、ふとそんな風に思った。
俺はいつも、人から距離を取られる事が多い。口下手で面白味に欠けた人間であることは、自覚している。だけど、構わなかった。特に不便は感じなかったし、むしろ女性には自分からも距離を取っていた。望まない好意を向けられることは疎ましく、避けたかったからだ。
反対に彼女は人との距離が近い。自分に好意を向けられることなどつゆほども思わず、誰とでも楽しそうに話していた。
──彼女、河合さんは営業事務の女性だ。そんな彼女に尊敬の意を抱いていた。常ににこにこと笑い、気の利いた冗談なんかを飛ばす。大友のつまらない冗談にも楽しそうに笑う。
凄い。俺には到底出来そうにない。まさに、俺と真逆にいるような人だった。その愛想の良さは俺にまで向けられた。今まで当たり前のように距離を取られていた俺にとって、戸惑うものだった。
「結城さん、知ってました? タピオカ店の後に何のお店が出来たか」
例えば、こんな世間話など、振られたことはなかった。
「いえ、知りません」
「ミニたい焼きの量り売りですって! 」
「……そうですか」
そもそもタピオカ店があったことも知らない。どう返していいかわからず、返事だけする。彼女も、俺と話すことを諦めるだろう。そう思っていた。
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