ショートストーリー

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 案の定、彼女は顔を曇らせた。……何か、言った方がいいのだろうかと、思い悩んでいると、 「“ミニ”ってとっても危険な言葉です。思いません? 」  と、彼女の方が再び口を開いた。 「……おっしゃってる意味が……」  彼女は前のめりで続けた。 「人間って、同じ量を食べるにも小さいのを何個か食べるより、ガツンと大きな一個を食べる方が満足するらしいです。つまり、“ミニ”は食べ過ぎてしまう!  ということです」 「……なるほど」 「だから、私はその店には行きません」  だから?ああ、食べ過ぎてしまう、ということか。 「……なるほど」  何が、言いたかったのだろうか、彼女は。話す間も手は止めず、てきぱきと仕事を処理していく。その後は話すことなくキーボードを叩く音だけが聞こえた。  その日、彼女は会う人、会う人に『たい焼きの店が出来た』と、話していた。  ふっ、おかしい。気になって仕方がないのか。  外回りに出掛けた際、甘い匂いに、ここかと、香りが漂う方へ顔を向けた。餡子だけでなく、色んな味があった。彼女は……、彼女はどれが好きなのだろうか。今度は、それを聞くために俺から話しかけてもいいのではないだろうか。  会話の糸口を見つけたことで、少しばかり愉快な気持ちになった。少し歩き始めた所で足を止め、もう一度たい焼き店を覗いた。  餡子、カスタード、チョコレート、抹茶、いちご、季節限定のさつまいも。種類を覚えておくとしよう。
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