ショートストーリー

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 翌日、就業時間前、誰もいないのをいいことに早速彼女に話しかけた。 「……たい焼きの店、ですが」 「ええ!? 食べたんですか? 」  ずいっと俺に近付く彼女に、こんなに食い付かれると思わなくて、少しばかり後ろへ下がった。 「いえ」 「あ、そうですか。すみません」 「……種類が、ありました」 「そうなんです! チョコレートとか食べたことなくて、たい焼きが焼きたてならとろけているんですかね!? どう思います? 」 「……どう……」  とは? 「熱々のチョコかあ」  うっとりと涎でも垂れそうな表情につい、吹き出してしまう。 「ふ、お好き、なんですね」 「あ、はい。チョコレート大好きで。そこのカフェでもクッキー買う時はいっつも、チョコチップの入ったものを買う……」  彼女は急に失速すると、顔を赤らめて席に座った。 「すみません、つい」 「……いえ」  俺が教えるまでもなく、ミニたい焼きの種類を知っているということは……。店を覗く彼女を想像するとおかしくて、緩んだ顔が彼女に見えないように、パソコンに隠れた。  食べればいいものを、何を……。そうか、“ミニ”はとっても危険なのか。量り売りなのだから、食べ過ぎる前に調整出来そうなものなのだが、どうやらそうもいかないらしい。
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