ショートストーリー

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 ──この日、他の人が出払っていたので、営業部には河合さんと俺だけだった。  確か……彼女はいつも中条さん相原さんと昼食に行っていた。今日は一人か。俺も一人だし、誘った方がいいのだろうか。いや、こんな面白くない男と二人で食事に行くより一人の方がいいに決まっている。  わかっている、なのに昼食の時間になると 「お昼、一緒に行きますか? 」  そう聞いた。……聞いてしまった。せめて彼女が行くか行かないかの選択が出来る、負担にならない言い方が出来て良かった。 「わあ、誘って下さるんですか。でも、今日は麗佳さんもるなちゃんもいないのわかってたのでお弁当、持ってきてしまって……。残念だなあ」  中条さんや相原さんが営業先へ直行であることは昨日からわかっていた。今までだって一人になることくらいあったのだろう。そうか、俺が気にすることもなかった。 「わかりました。では……」 「あ、はい。いってらっしゃい」  フロアを出て行こうとした時、呼び止める声に振り向いた。 「あの、誘って下さってありがとうございました」  彼女はにっこりと笑って俺に礼を言った。 「……いえ」  こんな些細なことにも、にっこりと笑って礼を言えるというのは、一種の才能なのではないかと思う。  彼女が誰からも好かれるのがわかる気がした。
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