ショートストーリー

7/18
前へ
/638ページ
次へ
 会社を出てしばらく行くと、たい焼きの甘い香りが漂ってきた。  ふと、そこで足を止めた。  彼女は……『残念だなあ』と、言ったか?本当は一人で食事をとりたくなかったのだろうか。  俺は香りのする方向へ向かい、チョコレートの入ったたい焼きを買った。いくつか女性の店員に質問をすると、快く答えてくれた。  先ほどの彼女を思い出し、 「ありがとうございます」  俺も笑顔を作って礼を言った。が、店員の狼狽する様子から、慣れないことはすべきでなかったと後悔した。  それからコンビニに寄ると、昼食を買って会社へと戻った。 「……戻りました。ご一緒しても構いませんか? 」 「あっ、おか、おかえりなさい」  まずかったかと思ったが、彼女は俺と目が合うとにこにこと笑った。……やはり一人は嫌だったのだろうか。 「たい焼きを買ってきたのですが、食後……」 「わあ! ありがとうございます! 」  被り気味の彼女に、買ってきて良かったと思った。そこから、彼女は弁当を食べるスピードが2倍速になった。 「先に食べて頂いても……」 「いえ、待ちます。あの、結城さんでもサンドイッチ食べるんですね」 「……ええ」  質問の意味がわからないが、実際食べているのだから頷く。
/638ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24890人が本棚に入れています
本棚に追加