ショートストーリー

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「やっぱり、その45度のところから食べるんですね」  45度……?流石に理解しかねて 「どういう意味でしょうか」  と、尋ねた。 「あっ、結城さんでもサンドイッチの三角は45度のところから食べるんだなぁって」  先ほどから反復している、『俺でも』とはどういう意味だろうか。 「……普通、ここから食べると思いますが」 「はは、普通じゃない方ですので」 「一体、私を何だと思っ……」 「ペットボトルのお茶! 結城さんは濃い緑茶! しかも玉露って感じ! 」 「……そう、ですか」  彼女は俺の買ってきたお茶に高揚した様子だった。まあいいか。よくわからないが、待たせるのも申し訳ない。たい焼きが冷めないように俺も早く食べるとしよう。  さっきまで楽しそうだった彼女が、眉間に皺を寄せて固まっていた。 「……どうされましたか」 「たい焼きには緑茶、さすがです」 「……いえ」 「……」  ……欲しいのだろうか? 「まだ、口をつけていませんので、良かったら半分……」 「ありがとうございます! 」  彼女は被り気味で礼を言うと、機嫌よく自分のマグカップを差し出した。  たい焼きの紙袋の中には、三つ入っていた。全部彼女へのつもりだったが、勧められるまま、一つを受けとる。 「一緒に食べて、感想を言い合うの楽しいですよね」  にこにこ笑う彼女に、こちらは背筋が伸びた。感想……を言わなければならないのか。
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