ショートストーリー

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 正直、甘いものはそこまで好きではない。人生においてたい焼きなど食べたのは数えきれる程度だ。……出来れば、あまり甘くないしっぽの部分を食べたい。そう思い、甘いだろう頭から先に口に運んだ。  同じく、頭から食べている彼女と目が合った。感想、感想を……言わなければ。 「結城さんも、頭から食べるんですね」  と、先に彼女が口を開いた。頷くと 「チョコレート、ってチョコレートじゃなくて、カスタードのチョコレート味! なるほどぉ、美味しーい」  と、幸せそうに、笑う。何だ、その日本語は。 「……甘いですね」  他に言葉が見つからずそう言った。 「本当、甘ーい。わかります! チョコたっっぷりの頭から食べたいですよね、ねぇ? 」 「……そう、ですね」  甘いので、先に食べてしまいたかったというのは黙っておいた。彼女は二つ目のたい焼きをじっと見つめていた。どうかしたのだろうか。 「たい焼きには緑茶。だけど、中がチョコカスタードとあれば、果たして緑茶でいいのでしょうか。どう思います? 」 「……どう……」  とは? 「うーん、コーヒー入れてきますね」 「あ、いや、」  自分で……と言おうとしたが、彼女は既に立ち上がって背を向けてしまった。  その隙に、口いっぱいに広がった甘さを緑茶で洗い流した。残るしっぽ部分は彼女が入れてくれるコーヒーを待った方がいいのだろうか。と、じっと見つめていた。
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