ショートストーリー

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 バチッと音がするくらい河合さんと目が合った。彼女はそわそわし 「……あの、あと一つまではセーフですよね? 」  おずおずと指を一本立ててそう言った。……ああ、あと一つで大きなたい焼き一つ分だと言ったことを気にしているのか。昼にたい焼きを食べたことは俺しか知らない。 「……私も、頂きますので」  俺がそう言うとほっとしたように 「あ、そうですか? じゃあ。どっちにしよう。カスタードか普通のあんこのか」  と、今日一番険しい顔で悩んでいた。 「食えばいーじゃん、どっちも。いっぱいあるんだし」  と、大友にすすめられ、両方手に取って俺をチラリと伺った。俺が頷くと嬉しそうに食べ始めた。 「そうそう、せっかく買ってきたんだからさ」  吉良がそう言うと 「ありがとう」  と、吉良にも大友にも笑顔を向ける。 「麗佳さんも、ミニサイズだし、冒険しなよ。それとも半分こしようか? 」  吉良がカスタードのたい焼きを中条さんに勧めると 「結構よ。私、見かけ通り大食いなの。一つ食べられるわ」 「……ああ、そう」 「麗佳さん、そこ強がらなくていいですから。それに、見かけ大食いじゃないですから」  相原さんが、なだめた。 「運動だってしているわ」 「はいはい。食べましょう」  相原さんがそこで遮った。 「吉良くんは顔も行動も軽薄だわ」 中条さんの物言いは理不尽だが、吉良が軽薄そうであることは否めない。 「……俺、何か気に触ること言った? 」  と、吉良が大友に尋ね、大友が複雑そうな顔で肩をすくめた。
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