ショートストーリー

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 ──気づいたことがあった。  河合さんは、俺にも距離を置かず普通に接してくれる。そう思っていたが、大友や吉良にはもっと距離が近かった。それどころか、他の部署の人達にさえそうだった。  俺にとって、普通だと思った距離感は彼女にとっては、普通ではなかった。彼女なりに俺には距離があった。それでも、今までの他の女性たちに比べたら普通に接してくれている。俺が普通に接してくれていると思うくらいには。  それに気づくと、すっきりしない気分になった。さっきまで悪くない気分だったのに。  まあ、いいか。仕事に差し障るほどではない。気落ちした原因を掘り下げて確認する気もなかった。  俺と彼女は正反対だ。愛想だって、人との距離感だって。たい焼きを頭から食べる理由だって……。 「いやあ、美味しかったですね、たい焼き。結城さんも頭から食べる派で嬉しいなあ」  書類を渡すついでの一時にそんな事を言う。 「……そうですね」  俺と彼女は正反対だけれど、同じ派閥に入れられ、こんな些細なことがまた気分の良いものにしてくれた。  ふわふわと柔らかい笑顔を向けられことが心地良かった。彼女は不思議な魅力のある人だ。  ──その後、たい焼き店は閉店してしまい、 「何のお店が出来たのかしら! 」  張り切ったのは中条さんだった。 「ごめん、るなちゃん。俺、甘いもの苦手なんだ。あと、お返しはいらないと麗佳さんを説得しといて」  吉良が相原さんにそう耳打ちした。
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