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いつかのいつか side yuki
「オープン初日なんてさ、絶対にすごい人だよねえ」
彼女は唐突にこう言った。何のことかわからず、続きを待ったが続くことはなかった。
「ねえ、結城さんって抹茶点てれるよね」
全く何を言っているのかわからない。
「点てたこと……ないけど」
そう言うと彼女は意外そうに目を見開いた。
「似合うのに!! 」
……突拍子もないことを言い出す彼女にも慣れつつあって、ただ「そうかな」と返した。
「うんうん。着物着るでしょ、正座するでしょ、茶筅シャカシャカして……正座しても座高低いんだろうね……待って、着物! 超超超超絶似合うね。あああああ、死ぬまでに一回くらい拝みたいな……」
不可解だ。
彼女は本人が目の前にいるにも関わらず、その目に俺は映っていなかった。きっと、またどこかへ行っているのだろう。
まあ、いいか。そっとしておこう。彼女が恍惚としている横でスマホを持つと“着物”と検索する。実家にあっただろうか。……着るか。それから、“抹茶 点て方”と検索してみる。
全くどうかしているが、もう少し彼女を俺に夢中にさせたくもある。よだれでも垂れそうな彼女の顔を見ていると、俺もつい顔が緩む。
「あー! もう、急に微笑むのやめてよ。危うく見過ごすところだったじゃない」
何と、理不尽な。
仕方なく、もう一度彼女に向かって微笑むと、彼女は真っ赤になって固まってしまった。……俺にどうしろというのだろうか。全く、勝手な人だ。
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