いつかのいつか side yuki

2/5
前へ
/638ページ
次へ
 彼女はいつも唐突で突拍子もない。 「コラボってさ、どういう意味だろうね」 「協力・連携・共同作業」 「うん。すっごいことだ……」  何がだろうか。この日も思ったが、自己完結したらしい。一人うんうん頷いていた。何のことか分からないが……まあ、いいか。  ――彼女はここ最近、時々、心ここにあらずといった感じだった。  そして、職場でも横の席の中条さんと 「いよいよ明後日ね」と話していた。それから、 「いや、私は行かないよ。だってすごい人だと思うよ。それにさ、だ、ダイエット中だし」  そう必死に否定していた。いや、逆に変だろう、それ。 「オープン記念でプレゼントがあるらしいけど、行かない」だなんて。気になって仕方がないのだろう。その様子にわずかに肩が揺れてしまった。  横の席の男、吉良が目ざとく気づき、 「連れてってやんなよ」  と俺に耳打ちする。すっと出された手元には明後日オープンする店のチラシがあった。  こらえきれずに吹き出す。  “オープン初日”“抹茶”“コラボ”    人気洋菓子店N.(エヌポワン)Quatre quart(キャトルカール)と老舗和菓子屋の望月庵。それに、有名お茶屋の入ったカフェ&(エスペルットゥ)がオープンするらしい。 「なるほど」    ――その日、家に帰ると、彼女と向き合った。 「明後日、せっかくだから行ってみない? &(エスペルットゥ)」  彼女は一瞬ぱぁっと顔を明るくしたが、すぐに俯いた。 「でも、明後日は初日ですっごい人だと思うの。結城さん人込み嫌いだし、甘いもの苦手だし、申し訳ないし、それに、ちょっと太ったし! 私、今、ダイエット中でっ」    なるほど。まぁ、ダイエットは必要ないと思うからさておき、俺に気遣って言い出せなかったのか。なぜなら、“日曜は俺の”だからだ。 「ふっ」  我慢しても漏れるほど行きたいってどんなだよ。彼女は吹き出した俺に真っ赤になった。
/638ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24969人が本棚に入れています
本棚に追加