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「電話、吉良さん? 」
横にいる彼女は吉良と中条さんに気が付くと嬉しそうに二人に手を振った。
「ヤバ! 私服の二人なんて超レア!! 美しいぃいぃ。ああん、望遠カメラ持ってくるんだった」
……理解の範疇を超えている。
だが、まあいいか。
ようやく順番が回って来ると、もはや昼近い時間になっていた。店内で食べる物は少し小ぶりに作られていて、洋菓子と和菓子どちらも食べたい客の気持ちを汲んでいるらしかった。
「すごい! こころ遣いがすごい! 一つなんて選べないに決まってるもん」
あまりの気迫と真剣なまなざしに、来てよかったと安堵する。
「俺はよくわからないから、良かったら俺のも選ん……」
「結城さんはね! 和菓子! 抹茶! おまかせあれ! 」
前のめりの彼女に、来てよかったと安堵する。
幸せそうに味わう彼女にもまた来てよかったと安堵する。帰り道になってダイエット中ということを思い出した彼女は少し早足になった。少し早く歩いたくらいでは痩せないのでは、と思ったが俺も彼女に会わせて少しばかり足を早めた。
「美味しかったなぁ、桜餅。それに、いちごのショートケーキ。あと、クリーム大福。さいっこう! 」
オープン記念に一人一個貰った店のロゴが入ったクッキーは、二つとも彼女の手にあった。落とすから、バッグに入れたらいいのに、大事そうに持っている。
「ねえねえ、知ってる? あそこの店プロデュースしてる会社さ、専務若くてすごくイケメンだったよ。あ、あとね、N.の御曹司も、望月庵の専務もイケメンで。この前特集してたの。&はねえ、美味しいだけじゃなくてイケメンコラボなの!! 」
さすがに度外視出来ずに抗議することにしよう。そう思って俺が口を開く前に、彼女は“ヤバイ”という顔をした。
「もちろん。結城さんが世界で一番、いえ、宇宙で一番! イケメンです!! 」
全く。何人いるんだ、そのイケメンとやらは。ふう、とため息を吐く。
「さ、帰ろうか」
「え、お昼ごはん……」
「十分食べた」
「でも……」
「駄目だね、『日曜は俺の』だろ? 」
そう言って、彼女にとびきりの笑顔を向けた。……赤くなった彼女に、ざまあみろ、と思う。もっと俺に夢中になるべきだ。そう思いながら固まった彼女の手をそっと取って歩いた。こけたりはしないように。
――もうすぐ、俺だけの彼女ではなくなるのだから。
――――end
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