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「とても、好きだったんですね。その人の事」
結城さんの言葉に、考え込む。好き……。
「それは……その、3年も付き合っていた……ので……」
歯切れ悪く答えた。そらそうだ、そう思うよね。30手前の女が職場で泣いてんだ。改めて考えると……好き、嫌いというより、大切な人で、もはや生活の一部だった。
「生活の一部になってたんです。居るのが当たり前というか心の在処というか……今まで彼と居た休日とか、誕生日とかクリスマスとか……時間をどう埋めるのが課題だったりしますね。どうしていいかわからない。この年になると、結婚してる子も多くて一緒に過ごせる友人もなかなか……」
思い返せば……好きってどんなんだろう。
もちろん、大輔は特別で、結婚すると思ってたし、彼への気持ちを疑ったことはなかった。
「眉間……、皺寄ってますよ」
気づけば、考え込んでいたらしい。るなちゃんが可愛い顔を近づけて、アイロンでも当てるように、私の眉間をこしこしこすってきた。
「……結婚、遠のいちゃったな……。この年で振られると、ダメージが半端ない」
「私も佳子ちゃんと、年かわらないけどね」
麗佳さんがそう言いながら、取り分けた料理を渡してくれた。
いや、違う。全然違う。私の独身と麗佳さんの独身では全然ちがう。
結婚“できない”と“しない”の違い、わかる?
“選ばれない”のと“選ばない”の違い、わかる?
切ない……。
食事を口に運ぶと、急にお腹がすいてきた。美味しいランチだったのに、もったいなかったな。そんな食い意地に気が抜けた。
「おいしい」
そう言って笑うと、みんなが安心したように優しく笑ってくれた。
あぁ、私この職場でよかったな。
「佳子ちゃんもフリーの仲間入りかぁ」
いい感じに酔ってきた麗佳さんがつぶやいた。麗佳さんは酔うと可愛くなって、いい意味で隙ができ、色っぽくなる。
溜息モノだ。
横の方、よく平気でいられるな。結城さんをチラリと見ると綺麗な姿勢のまま平然とそこにいらっしゃった。そういえば、彼はどうなんだろう。
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