第5話 side yuki

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 相原さんが選んでくれた店へと、向かう。11月にしては、随分寒い日だった。まだ慣れていないここまでの寒さに、すれ違う人がぎゅっと身を縮めるように歩いて行った。  ……こうして、彼女のプライベートを見たのは初めてだった。  6人で形成された営業部。河合さんを除く5人が営業を担当し、彼女は俺たちの事務方を1人で引き受けてくれている。俺たちの中で1番勤続年数も長い。  1人で事務を全てまかなえるのは、彼女がベテランであるのを除いても、やはり仕事が出来るからであろう。だからこそ、安心して任すことができている。  彼女は、朗らかな人柄で……物理的にも心理的にも人との距離が近い。気づけば誰もが彼女と親しくなっている。  そんな訳で、内勤にも関わらず、取り引き先の内情にすら詳しい。実は営業に外に出てるのでは?と、疑うほどに。  ……話しやすさ、それは自分には無い物だ。  とにかく、まわりの好感度の高い女性で、物理面で言うと、パーソナルスペースが人より少し……狭い。それ故、人の心理面にもあっさり入ってしまうのだろうか。きっと、無自覚なのだろうが。  大友も物理面で近いが……彼の圧が強い近さとは違い、柔らかい雰囲気をまとう彼女との距離感は妙に心地が良い。  “癒し系”この言葉が当てはまるのだろうか。  彼女の存在がこの部を明るくしてくれていると言っても過言ではない。だからこそ、“適材適所”この配置が恐ろしく上手いこの会社において、この部を切り盛りするような内勤として選ばれたのだろう。うちの上層部の采配は流石としか言いようがない。  痒い所に手が届く。みんなが気持ちよく過ごせる様に、常に気を配ってくれている。お陰でみんなが円滑に業務に取り組める。  まるで、部の母親みたいな人だな。俺が知っているのは、そんないつも誰かと楽しそうに話している業務上の彼女だ。
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