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第7話side yuki
「おい、どうなってんだ? 昨日、うまくやったのか? 」
その日の昼前、女性陣がいなくなったのをいいことに隣の吉良が小声で聞いてきた。
「あ、でも佳子ちゃん大丈夫そうだったな、今日。すっげー、いつも通り」
俺が答える前にそう言った。
「……そうだな。我ながら、名案だった」
「うわ、何だそのクールなどや顔。何したんだよ」
そして、また俺が答える前に
「待て待て、じっくり聞きたいわ。昼飯……ダメだ。今から出て……帰んの、夕方」
一人でブツブツ言っている。
「そんな、大した話はない」
そう言ったにも関わらず
「OK! 明日、昼飯行くか。こいつも帰ってくるし」
そう言って、大友のデスクの方へ親指を立てて指した。そして、河合さんがフロアに戻って来たのを合図に業務に戻った。
……そう、我ながら名案だ。
あの日の帰り、河合さんはなんだか様子がおかしくなったが、送るつもりで最寄り駅まで一緒に行くと、
「ここで」
と、言われた。
足取りは安定していていたので、無理強いはせずにそこで別れた。
……1人になると笑みがこぼれた。30歳までに結婚したいという彼女の願いを叶えてあげられる。不安を除いてあげられる。
……彼女なら……
結婚相手となる恋人など、すぐにできるだろう。それまでの、例え……短い期間であろう不安であっても取り除いてあげたい。
自分を保険に使えばいい。彼女とは業務上のみの関係ではあるが、付き合いはそれなりに長い。彼女のひととなりは知っているつもりだ。何も問題はない。おそらく、実際に結婚する事はないだろう。
しかし、万が一があれば結婚してもいい。……彼女と。
何も問題ない。
自分には結婚を考える特別な女性も、それに伴う特別な感情もないのだから……。
これで、彼女が泣くこともないだろう。翌日の彼女はいつも通りの朗らかな彼女だった。いつもより、仕事への情熱もあった様に思う。
大丈夫だろうと思ったが、カップの件を念押しした。……彼女の不安がぶり返さない様に。酒が入った時の戯れ言ではないと、伝える為に……。
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