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 今仮に『行かないよ』と言ってくれたとしても、未来はわからない。  人は一日で心変わりできる。  だから今断言させることも約束させることも意味がない。  そうわかっているのに。それでも、言葉が欲しいと思ってしまう。  自分はこんな人間だっただろうか。こんなにも非合理的な思考だっただろうか。 「君より綺麗な人はいないよ」  そこで意外な答えが返ってきた。てっきり『そんな人が現れても君を選ぶよ』というようなフォローがつくと思っていたから。 「そんなことはありえません。僕より容姿の優れた人はいくらでもいるはずです」 「みんながそう言ったとしても、俺は君が一番綺麗で、一番好みで、一番愛しいと思うから」  そういう意味か。つまり、志賀にとって麻木を超える人間はいないと言いたいのだろう。  ああそもそも志賀に言葉の応酬で勝てるはずがないではないか。反論の余地がない。観念するしかない。恥ずかしさでうつむいた。 「ねえ、もう触れてもいいかな? ずっと君の肌が恋しかったから」  問われて、答えるまでもなく志賀に抱き寄せられていた。  一週間ぶりの抱擁に、初めてされた時のようにまた新鮮な気持ちでときめいた。
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