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「そちらの道を目指さなかったのは何故ですか?」
「親が法曹界へ進んでほしいようだったからやめた」
あ、と思った。しまった。
また意図せず志賀の家族の話題に触れるような質問をしてしまった。慌てて話を変える。
「あ…料理人というと和食ですか? 志賀さんの作るものは洋食も中華もどれもとても美味しいので…」
「ごめんね、気を遣わせて。家族の話になったから話を変えなきゃって思わせちゃったかな」
そこで志賀はいつものように流されてくれなかったのでぎくりとした。
「君もとっくに気づいているよね。俺は家族の話をしたくなくて、今までその話題を避けてきた。でも君には知っておいてもらいたいし、いつか言わなきゃと思ってここまで来てしまった」
「……」
「今度時間がある時に聴いてもらえるかな? 君も察している通り、聴いてもあまり気持ちのいい話じゃないけど」
「…それは構いませんが、でも志賀さんが…」
志賀が言いたくないものを無理に言わせたいとは思わない。恋人だから知る権利があるなんて思っていない。
「俺はいいんだ。事情を知ってる人間は検察にもいる。水落さんにだって知られてるし、その話題をされることもある。だからって別にシャットアウトはしてなくて、普通に話してるよ」
そうだったのか。いや、だからこそ地裁まで志賀の過去や家族の噂話が届くのだろう。
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