6076人が本棚に入れています
本棚に追加
「志賀、悪いな。短期間だけ特捜部にヘルプに入ってくれ」
ついにきたか。
月曜の朝礼の後、公判部部長坂崎から直々に呼び出しを受け、嫌な予感がしつつも個室へ入った。
そして冒頭の台詞を単刀直入に告げられた。坂崎の面持ちは、厳格ながらも申し訳なさが漂っていた。
今まで彼から特捜部への異動をそれとなく、いや、何度となくほのめかされていたが、それとなく何度となく躱してきた。公判部の仕事を続けたいので、と。
頑としてはねのけたらこの応援要請も受けずに済むことは知っている。
しかし、特捜部だけでなく法務省からも誘いを受けている。それとなく何度となく。
だから坂崎もそのたびに双方に断りを入れる羽目になり、さぞかし心労があっただろうと思う。
そして今回は『希望すればそちらに進める』というような本人の意思を尊重する類いのものではなく、おそらく強制力のある申請なのだろう。
つまりは決定事項に近いに違いない。
やれやれ、と苦笑とともに小さくため息をついた。
これまでどっちつかずの曖昧な回答で逃げたつけが回ってきたか。
最初のコメントを投稿しよう!