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「いえ。違います。八奈見さんは他に恋人がいらっしゃいます」
「じゃあどなたですか? 色々な方との噂を耳にしますけど…」
「どなたでもありません。土屋さんのご存じない方です」
「ということは、噂のある方たちとは何もなくて、根も葉もない噂っていうことですか?」
「根も葉もない噂です」
その噂の中に当然志賀も混じっているのだろうが、事実を言うわけにもいかない。彼に迷惑がかかってしまう。だから否定した。
「そうですか…。そうですよね。麻木さんはお美しいから、常に誰かしらから言い寄られてるって聞きますし」
「言い寄ってくださるすべてをお断りしています。恋人がいますから」
「数多くの男性の中から選ばれたその恋人の方ってさぞかしハイスペックのイケメンなんでしょうね?」
どうでもいいが福士にしろ土屋にしろ、何故恋人が男だと決めつけた上で会話を進めているのだろうか。実際そうだし、つっこまれたところで結局男だと嗅ぎつけられるだけだから、もう何も弁解しないが。
「そろそろ本題に戻して構いませんか? 僕もまだ仕事がありますので」
「あ…そうですよね。すみません、個人的な話が先行してしまって」
咎めると土屋ははっと我に返ったように苦笑し、そのまま仕事の話に移行してくれたので助かった。
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