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プロローグ...ハルベリア
ここは、
どこだっただろうか。
記憶の奥底に眠る、見覚えのある丘。
真っ暗な空には無数の小さな星が輝く。
街灯ひとつ無いのだが、足元はかろうじて月明かりに照らされていて、進むことが困難な程ではない。
見上げた視線の先には
大きな大きな樹が立つ。
ああ、思い出した。
ここは‥‥ ベル丘陵。
『‥‥‥‥サ‥‥』
誰かの声が聞こえた。
遠い昔に聞いたことがあるような、
なんだか懐かしいような、女性の声だ。
『‥ディサ‥‥‥‥‥』
その声は、
静かに俺の名前を呼ぶ。
「君は‥‥‥‥」
大きな樹の下。
この目は、俺の名を呼ぶ声の主を見た。
長い髪が、風になびく。
細身の女性がこちらを見ている。
だが、暗くて顔がよく見えない。
『‥ディ‥‥‥。』
その声はまた次第に小さくなっていく。
「待ってくれ、君は‥‥‥」
意識が離れていく。
待ってくれ。
君は、君は‥‥一体、誰なんだ‥‥
俺はどうして
君を思い出せないんだ‥?
『‥‥‥サ‥‥‥‥‥‥』
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