母性

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 夫がこの春、機長に昇進した。彼は院卒で私より2つ年上だったものの、入社した航空会社では同期だった。私は結婚を機に、キャビンアテンダントの職を辞す。悔いはなかった。結婚で女のステージを一つ昇れたと確信したから。でも、ところがである。今回の人事異動で、私より明らかに仕事ができなかった同期のカノジョが、主任に昇格した。同期のCAが参加するグループLINEで、カノジョはその報告をアムステルダムからした。恐縮しながらも、それは自慢げに……。  カノジョのインスタを見ると、フライト先である世界各国のワインにスイーツ、さらには、ランプシェードを扱う店を紹介していて、私はそこにもう一つの人生を見た。もし結婚していなかったら、彼女のような人生を送っていたかもしれない。自由という名の、極上の贅沢な時間……。すると、同期たちも私と同じように、恨めしかったようで、「おめでとう」のスタンプがつらつらと無機質に並ぶだけ。この時、出産した同期のアイコンがいずれも、自身のウェディングドレス姿から我が子に変化していたことに、私は気づいた。そう言えば、死んだママがよく言っていた。男と永遠の愛を誓っても、所詮、他人よ。心から信じられるのは、血を分けた子供だけ、と。みんなもそうなんだろうか。あ、たった一人、同期のヨシコだけは変わらないけれど。インスタでも彼女はいつも中心で、夫や娘はまるでアクセサリー、付属品である。しかし、ここまで自分好きを貫けるヨシコを見ていると、正直、うらやましくもなる。
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