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「翔!」
鷹取の珍しく焦ったような声が聞こえた。
川と垂直に、と言っていた彼の忠告はもはや聞けそうにない。
烏丸は斜めに傾いた全身を立て直す余裕もなく、谷へと落ちながら、ただ視線の先のカラスを見つめていた。
翼を持ったカラスは、落ちていく人間のことなど見向きもしない。
烏丸がどれだけ手を伸ばしても、その背中はどんどん遠ざかって天へと昇っていく。
やがて右足のかかとが川面へと到達した、と思った瞬間。
どこか遠くで、骨の砕けるような音がした。
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