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いつもは車や自家用ヘリで移動するけれど、さすがに新婚旅行までそれでは味気ない。
わたしは先生に連れられて、バスや電車、新幹線にも乗った経験がある。
人が混雑する時間帯を避けて乗ったけれど、楽しかった。
だから今回の移動も、そういうのが良いとワガママを言った。
「ああ、そのことなんですが」
不意に先生は動きを止めた。
そしてわたしの方を見て、ゆっくり微笑んだ。
途端に背筋にゾクッと悪寒が走るっ!
「えっ…?」
何かこの超サドっけのある笑み、久々に見たような気がする…。
寒気を抑えながら、わたしは引きつった笑を浮かべた。
「旅行はキャンセルしました。なので新幹線にも乗りません」
「………はい?」
言われことを理解するのに、30秒ほど時間がかかった。
「きゃっキャンセルって…何か他に用事でも入ったの?」
「いいえ」
「なら向こうからのキャンセル?」
「それもないです」
そりゃそうだろう。
わたしと先生が選んだのは、温泉の出る避暑地。
今ならシーズンオフだし、人も少ないだろうと思って行くことにした。
しかもペンションを丸ごと1つ、借りたのだ。
泊まり専門のペンションだけど、歩いて三百メートル先には喫茶店や土産物の店が立ち並ぶ、商店街がある。
商店街と言ってもオシャレで、そこが気に入って昨年から予約していたのに…。
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