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特にご飯を急いで食べるなど、できる訳もない。
頬張る姿など、先生以外の人の前では決して見せられないし。
なのでわたしは童心に返りながら、美味しい朝食をお腹いっぱい食べた。
食後にコーヒーを飲んで、わたしと先生は別荘を出た。
「ここから十分ほど歩きます。お手をどうぞ、お嬢様」
「ふふっ、ありがとう」
先生が手を差し伸べてくれたけれど、わたしは腕にしがみついた。
「二人だけだし、いいわよね?」
先生は一瞬驚いたものの、すぐに微笑んでくれる。
「良いですよ。誰もいませんしね」
明るい陽の中、周囲を見回すと、確かに誰もいない。
昨夜は暗くて見えなかったけれど、所々に別荘みたいな建物が点在している。
「ここも避暑地の一つ?」
「ええ。しかし残念ながら温泉は出ていません。そこのところはガマンしてくださいね」
「ガマンって程じゃないと思うけど…。まあ別にいいわよ」
温泉にそれほどこだわっていたワケじゃない。
ただ楽しみの一つにしていたに過ぎないから。
「でも良い所ね。山の空気は美味しいし、陽の光もちょうど良いわ。これから毎年、二人だけで来ない?」
「そう言っていただけると嬉しいですよ。それなら毎年、結婚記念日にはこちらに来ましょうね」
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