1543人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
プロローグ:あやかし世界と稀人な私
何の変哲もない路地裏。
神社の御神木の根本。
玄関の姿見の中。
何気なく覗き込んだ先には、異世界が広がっている。
現世と隠世の境は曖昧だ。ふとした瞬間に、迷い込んでしまうことがある。隠世の住民たちは、誰も彼もが異形揃い。一癖も二癖もある者ばかりで、人間を喰らう者さえいる。
私――村本 夏織は、そんな隠世で育った。
言っておくが、私は人間だ。私は、隠世に迷い込んだ人間――稀人というものらしい。小さなころ、隠世の住人に拾われて育てられた。人間を糧とするあやかしも多い中、ここまで無事に育つことが出来た私は、本当に運が良かったのだろうと思う。
――アルバイトを終えた私は、夕飯の買い物を済ませ、いつものように現世から隠世へと帰る。
茜色に染まる空の下、住宅街の一角にある道祖神の祠を目指す。
辻にある古びた道祖神には、今日も綺麗な花が供えられていた。私は周囲を見回し、誰もいないのを確認すると――そっと道祖神の祠に触れた。
「帰りゃんせ」
すると、ふっと周囲が暗くなったのがわかった。
最初のコメントを投稿しよう!