プロローグ:あやかし世界と稀人な私

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プロローグ:あやかし世界と稀人な私

 何の変哲もない路地裏。  神社の御神木の根本。  玄関の姿見の中。  何気なく覗き込んだ先には、異世界が広がっている。  現世(うつしよ)隠世(かくりよ)の境は曖昧だ。ふとした瞬間に、迷い込んでしまうことがある。隠世の住民たちは、誰も彼もが異形揃い。一癖も二癖もある者ばかりで、人間を喰らう者さえいる。  私――村本(むらもと) 夏織(かおり)は、そんな隠世で育った。  言っておくが、私は人間だ。私は、隠世に迷い込んだ人間――稀人(まれびと)というものらしい。小さなころ、隠世の住人(あやかし)に拾われて育てられた。人間を糧とするあやかしも多い中、ここまで無事に育つことが出来た私は、本当に運が良かったのだろうと思う。  ――アルバイトを終えた私は、夕飯の買い物を済ませ、いつものように現世から隠世へと帰る。  茜色に染まる空の下、住宅街の一角にある道祖神の祠を目指す。  辻にある古びた道祖神には、今日も綺麗な花が供えられていた。私は周囲を見回し、誰もいないのを確認すると――そっと道祖神の祠に触れた。 「帰りゃんせ」  すると、ふっと周囲が暗くなったのがわかった。     
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