閑話:あやかしの夏

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 黒猫と協力して掘った穴に、ふたりを並べて寝かせる。そして、その上に白い菊の花を沢山敷き詰めて、ふたりを飾り立てる。ナナシがくれたお香を焚いて、安らかな顔をしているふたりに手を合わせた。  祈りを終えて顔を上げると、夏織は手が白くなるほどぎゅっと握りしめて佇んでいるのが見えた。夏織の瞳には、もう涙は浮かんではいない。けれど、酷く落ち込んでいるのは理解出来た。  すると、黒猫が夏織の足下に座って言った。 「また、戻ってくるわ。8年なんて、瞬く間じゃない」 「……」 「これは魂の抜け殻。もう、これに価値はない。悲しむことじゃないわ」  黒猫の言葉。それは、あやかし(・・・・)の言葉だ。  その言葉に、夏織は返事をせずに、黙って俯いている。  俺はなんだか頭に来て、ずかずかと乱暴な足取りで夏織に近づいた。すると、足が当たりそうになった黒猫は、不快そうにその場を避けると、「何なのよ!」と文句を言った。  そして俺は、黙って夏織の頭を自分の胸に抱き寄せた。夏織は体を固くして、驚いた表情を浮かべている。そんな夏織に、俺はぼそりと呟くようにして言った。 「……人間にとっての8年は、とんでもなく長いんだよ。あやかしの感覚じゃあ、あっという間かもしれないけどな」  すると、黒猫はぱちぱちと俺を見つめると、苦虫を噛み潰したような顔になった。俺は胸が重くなるのを感じながらも、畳み掛けるようにして言った。     
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