閑話:あやかしの夏

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「それに……本当に魂の抜け殻だったとしても、この体は確かに夏織の友だちだった。大切な友だちだったんだ。――悲しんで何が悪い。寂しくて何が悪い。別れを惜しんで何が悪い」  黒猫は、オッドアイの瞳をすっと細めると、そっぽを向いてしまった。  そして、俺は今度は夏織に向かって語りかけた。 「それに、人間……我慢するのは良くない。泣け、馬鹿」  ――感情を殺すことを強いられてきた俺が、言うことじゃないけどな。  ぼそりと、言い訳めいたことを言って、俺は口を閉じる。  すると、夏織は小さく震え出した。その瞳は、あっという間に涙に濡れて、顔をくしゃくしゃに歪めると――。 「あああああああああ……ッ!!」  大きな声を上げて、泣き始めた。  蝉の声が響く森の中。ふと顔を上げると、夏の強い日差しを浴びて、葉に残った雨の名残りが、キラキラと眩しいくらいに輝いていた。
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