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私が笑顔で頷くと、水明はクロと顔を見合わせて笑った。
「わー! オイラたち、これからそこの……ええと、おばちゃんのとこに世話になるのか!」
すると、クロが放った無邪気な言葉が、場を凍りつかせた。
――ひえええ、ナナシの顔が般若のように!
「……へへへ、無知っちゅうのは恐ろしいもんだぜ……!!」
「辛子を傷に塗りたくられる前に、前言撤回した方がいいよ」
金目銀目は、ふたりとも顔を真っ青にしてクロに忠告している。そんなふたりに、クロはこてんと首を傾げると、「……じゃあ」と口を開いた。
「――おねえちゃん?」
「ああん、もう! 可愛いわあ……!! 私、今日からこの子の母になるう!」
どうやら「おねえちゃん」はナナシの琴線に触れたらしい。クロを力いっぱい抱きしめたナナシは、その小さな顔に頬ずりしている。
……ピュアっ子の威力……!!
私がその威力に恐れ慄いていると、水明がぼうっとそれを眺めているのに気がついた。
疲れが出てきたのだろうか。無表情でクロを見つめる様は、初めて会った時のようだ。
『――お前には、世話になりっぱなしだな』
その瞬間、先程の水明の笑顔が脳裏に浮かんできて、瞬間湯沸器のように顔が熱くなってしまった。
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