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「よっしゃあ! 今は家のボロさは関係ねえ。寧ろ、記憶の彼方に追いやれ。それよりも、肉だ肉! 夏織、上等な肉を買ってこい! こう、触ると脂が溶けるようなやつな……!!」
「ちょ、東雲さん。節約しなくっちゃ駄目でしょう!? って、今日はいいわよね! 諭吉様ひとりくらい、婿に出してもいいわよね……! 買ってくるわ!!」
私はシュバッと片手を上げると、サンダルをつっかけて外に出た。
「おい、待て……!!」
すると、水明が私を呼び止めたので振り返る。すると、水明は整った顔を蒼白にして、私に手を伸ばしていた。
「お、俺をこのおっさんと二人きりにするな」
「はっはっは。何を言っているんだ。これから、同じ釜の飯を食う仲間じゃねえか、腹ァ割って話そうぜ」
「無理だ。やめろ。くっつくな。断固拒否する」
私は、ふたりの楽しそうな掛け合いを聞きながら、軒先を潜った。すると、途端に幻光蝶が寄ってきて、周囲が明るくなる。
私は美しい蝶に指先で触れると、くるりと振り向いてふたりに向かって叫んだ。
「水明! 帰ってくるまで、ちゃんと生き残っているのよー!」
「おい、嘘だろ」
「行ってきまーす!」
私は軽い足取りで一歩踏み出すと、常夜の街へと繰り出したのだった。
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