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私は、のそのそと縁側に向かう水明を見送り、未だ寝ている東雲さんの下へと向かった。東雲さんは、薄いせんべい布団をまるで抱きまくらみたいにして、すやすやと気持ちよさそうに眠っている。
「さあ、起きて!」
私は遠慮なしに、せんべい布団を東雲さんの腕から抜き取ると、床に散らばっている書きかけの原稿を片付ける。東雲さんは、布団を抜かれたのにも気が付かずに、むにゃと気持ち良さそうに寝返りを打った。
――その時だ。
「……うああああああ!!」
「す、水明!?」
「ぐえっ!」
水明の悲鳴が聞こえて焦った私は、東雲さんを思い切り踏みつけて裏庭の井戸に向かった。我が家の裏庭は、居間を抜けた向こう側にある。ふたりも座れば満員の縁側に、苔生した小さな坪庭。そこの隅に、小さな井戸があるのだ。
私は勢いよく障子戸を開けると、目の前に飛び込んできた光景に、唖然として立ち止まった。
「お前、誰だ! 何故、夏織の家にいる――!!」
それは、水明を大烏が襲っている光景だった。大烏は、しきりに水明の頭を嘴で突き、激しく攻撃している。その度に濡羽色の羽が宙を舞い、庭中に散らばった。
「あっ、夏織。邪魔しているよ~」
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