富士の大あやかし

47/47
1542人が本棚に入れています
本棚に追加
/191ページ
 どくん、どくんと心臓が早鐘を打ち、体がそわそわして、この場に立ち会えたことを幸運に思う。  ――やがて、七色の光を放っていたダイダラボッチの姿は、空に溶けるように消えてしまった。けれども、それはきっと姿が見えなくなってしまっただけだ。今もなお、ダイダラボッチは富士の麓で眠っているのだろう。そして、ぐっすり眠った後は、また日本中を彷徨うのだ。風の吹くまま、気の向くまま――なんて、自由な生き方だろうか。  ぬらりひょんは、海月に預けていた本を回収して閉じると、私に渡した。 「ありがとうのう。これで、暫くは大丈夫じゃろう」  私はそれをぎゅう、と胸に強く抱きしめる。そして、少し不安になってぬらりひょんに尋ねた。 「お役に立てましたか?」  すると、ぬらりひょんは目尻に皺をたくさん作って、私の頭をぽんと叩いた。 「勿論。――また、頼む」  私は嬉しくなって、大きく頷いた。 「ご用命の際は、隠世の貸本屋へどうぞ!」  私の言葉に、ぬらりひょんは「そうさせて貰おう」と呵々と笑ったのだった。
/191ページ

最初のコメントを投稿しよう!