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どくん、どくんと心臓が早鐘を打ち、体がそわそわして、この場に立ち会えたことを幸運に思う。
――やがて、七色の光を放っていたダイダラボッチの姿は、空に溶けるように消えてしまった。けれども、それはきっと姿が見えなくなってしまっただけだ。今もなお、ダイダラボッチは富士の麓で眠っているのだろう。そして、ぐっすり眠った後は、また日本中を彷徨うのだ。風の吹くまま、気の向くまま――なんて、自由な生き方だろうか。
ぬらりひょんは、海月に預けていた本を回収して閉じると、私に渡した。
「ありがとうのう。これで、暫くは大丈夫じゃろう」
私はそれをぎゅう、と胸に強く抱きしめる。そして、少し不安になってぬらりひょんに尋ねた。
「お役に立てましたか?」
すると、ぬらりひょんは目尻に皺をたくさん作って、私の頭をぽんと叩いた。
「勿論。――また、頼む」
私は嬉しくなって、大きく頷いた。
「ご用命の際は、隠世の貸本屋へどうぞ!」
私の言葉に、ぬらりひょんは「そうさせて貰おう」と呵々と笑ったのだった。
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