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部屋はスタンダード・スイート、いつもは広めのダブルルームって言っていたくせに、今日に限って。
別に私を連れているからじゃないことくらい解っている。
どうせ、喫煙の部屋が埋まってて、我慢できなかったからとか、そんなところがスイートを予約した妥当な理由だろう。
だから変な期待なんてしてはいけない。
私は彼にとって特別な女じゃない。きっとスタンダード・スイートの価値の方が上かもしれない。
――一泊いくらかなんて、もちろん私は知らないが。
さすがスイートルーム、夜景も調度品も私の目から見れば一級品だ。感嘆で溜め息が出そうになる。
そして今私は、そんな調度品に紛れて、豪奢な毛足の長いペルシャ絨毯の上に手足を付いている。――一糸纏わぬ姿で、だ。
そんな私を上から見下すように眺める彼は、スーツ姿のまま、その磨かれ光沢を放つ黒い革靴を履いたまま、私の後頭部に脚を降ろし踏みつけてきた。当然、私は痛くて声を漏らす。それでも彼は容赦がない。
「たまには床に額ずいて、己の幸せでも神に祈ったらどうだ」
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