33人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼく、藤林 隼は、実は現代に生き残る忍者黒影流の末裔なのである。大鴉も表向き化学教師だが、黒影流の忍の一人で、裏の顔ではぼくの教育係だ。
昔の忍者は12歳で一人前だった。でも、現代の忍者は16歳で一人前になる。それまでは教育係という名の監視がつく。ぼく藤林 隼は、今15歳。誕生日は5月16日、一人立ちまであとちょうど1か月だ。
大鴉は続ける。
「任務遂行以外で忍術を使うのは禁止事項です。クラスメイトの羽山が見知らぬ男からストーキングを受けているのは私も知っていますが、無償でそれを助けるのは掟に反する。貴方は仮にも由緒ある忍の一族、藤林家の次期頭領なのです。私情で動くことは許されない」
次期頭領、という言葉にぼくは微かに眉をひそめる。ぼくの父親は確かに黒影流の頭領だ。だからといってなぜぼくが次期頭領にならなくちゃならないんだろう。ぼくは頭領なんて気の重たいものにはなりたくない。でもこれを言うと大鴉とは毎回喧嘩になるから、黙っておくのが賢明である。
ぼくは体を大鴉に向け直し、丁寧に言った。
「誤解ですよ、先生。これはビジネスです」
「どういうことです」
眉をひそめた大鴉に、ぼくは表情を変えずにできるだけさらりと言う。
「うちは表向き探偵事務所でしょう。羽山さんが困っているようだから、ぼく直接依頼を受けたんです。出世払いで」
「それはそれは。しかし、契約書のないものを我々はビジネスとは呼びません」
そう大鴉は切り捨てる。ぼくは俯いた。
「契約書なら、作ったよ」
「事務手続きをしたのは誰です。責任をとってもらわねば」
大鴉の目が鋭く光る。ぼくに協力した事務所のスタッフを特定しようとするように、窓の外にちらと目を投げた。ぼくは学校向きの敬語で装っていた冷静をかなぐり捨てる。
「! やめてくれよ。ぼくが勝手に作ったんだ。だって、ひばりは身の守り方も知らないんだ。襲われたってぼくみたいに闘えないだろ、放っとけるもんか!」
「それが私情だというんです!」
低く怒鳴った後、大鴉は、寒さを思い出したように襟元をより深くかき合せてぼくを睨んだ。
最初のコメントを投稿しよう!