2人が本棚に入れています
本棚に追加
黒くて霞みがかっている何かが、眼前に広がる満天の星空を徐々に飲み込み、星が一つ、また一つと明かりが消えて暗くなっていく。
弘坂伊武輝はただ一人、その光景を見上げて静観していた??あれは雲だと。しかし、伊武輝は目を細めて凝視すると、それは雲ではないことがわかった。
星を隠している何かは、赤い目が一つ見開いていた。時折、視線を伊武輝に投げかけながら空の遠くに漂っている。
あの黒煙に飲み込まれたら、ここには戻れないかもしれない。
伊武輝は自分の身に危険が迫っていることを悟り、顔が少し歪んだ。
見上げた頭を下に向けると、足が着いているはずの地面はなく、奥深くにも無数の星が散りばめられていた。どれも針の穴ほどの大きさで、きらきらと宝石のように煌めいている。
黒煙に気づかれないように、伊武輝は見えない地面をそっと靴で擦った。ジャ、と砂利の小さな音がした。片足に重心を掛けてもビクともせずにしっかりと立っていられる。どうやら見えない砂利が分厚く積み重なっているようだ。
しかし、この地面がどのくらい先まで続いているのかわからない。何しろ、全く見えないのだから。坂もあれば、落とし穴もあるかもしれない。もしかしたら見えない小石があるかもしれない。迂闊に動くと物音で気づかれてしまう。
伊武輝は顔を上げた。前方には光を放つ小玉の星たちが、彼の目線の高さまで宙に浮いている。そして、侵入しないと約束しているかのように、百メートルくらいまでお互いに離れていた。
おれは今、星空の中にいるんだ。
伊武輝はそう確信すると、視界の端から光が差し込んでいるのを感じ取った。後ろに振り向いたその時、あまりにも眩しさに目を細めた。背後にも星たちが瞬いていたが、とりわけ強い光を放つ星が一つあった。近くまで歩けば、伊武輝の身長くらいはある大玉だろうか。その強烈な光は、まるで伊武輝を呼びかけているようだった。脈打つように明かりが小さく揺らいでいる。
伊武輝は黒煙をちらっと盗み見ると、その星に応えるようにそうっと忍び足で大玉の光に向かった。地面が見えない分、その足取りはとても慎重だった。
そこに行けば、あの黒煙にきっと飲み込まれずに済む。安全に違いない。
最初のコメントを投稿しよう!