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仮想世界は無欠のように思われているけれど、もちろん完璧ではない。寝ているはずが、ナノボットの誤作動で仮想世界に入り込んでしまうのだ。夢と仮想世界の見分けがつかないので、仮想世界の管理者は、利用者のログイン時に通知を出すようにしている。だが、中にはそのような措置を取っていなかったり、利用者が通知を拒否している場合、仮想世界だと知らずに長時間居続けると、健康に悪影響を及ぼす。意識が仮想世界にいるときには、現実世界の体が休めず、睡眠不足に陥る。睡眠障がい者と意識障がい者の数は、仮想世界の登場を期に増加が著しい。
「怠い……」
伊武輝も寝ている最中に、仮想世界にときどき迷い込んでしまう。そのときの目覚めはとても悪いものだ。めまいがするし、吐き気もするし、激しい頭痛もする。もっと悪くなれば、起き上がることも困難になる。最悪、意識を失うことだってある。幸いにもまだ意識を失ったことはないが、それほど睡眠障がいや意識障がいは身近になったのだ。
もしそうなってしまっても心配は要らない。発症すると、ナノボットがすぐさま診断を始める。原因と対処法がわかると、その症状を治す治療薬をすぐさま分泌するようになっている。治せない病気はあるが、難病と言われた病気が完治できることを考えると、多くの患者に希望をもたらしてくれたに違いない。ナノボットのおかげで健康を維持できるようになった。
早くナノボットのバグを直してほしいものだが、どうやら対処法がまだないらしい。
ナノボットはいわば、一つの細胞の役割を果たしていて、別のナノボットに異常があればすぐさま除去される。つまり、ナノボットのシステムを更新している最中に、別のナノボットが誤認してそれを阻止してしまう。これでは話にならない。
別の対策として、インターネットから通信を切り離せばいい話だが、政府のお偉い方はテロリストの芽を摘みたいらしく、これを許してもらえない。
そういう事情もあって、今はナノボットの治療薬に頼らざるを得ない。
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