《 春の日に 》
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《 春の日に 》

「あ、おばあちゃん見てみて!手水舎ちょうずやの後ろの椿の木、桃色と白色の花が一緒に咲いてるよ」 ある晴れた春の日の夕暮れ近く、神社の境内に少女の柔らかな声が響く。 『春ちゃん、綺麗ねぇ』 その後に続く年老いた女性の声色こわいろも、凛とした空気の中に優しく響いた。 「神社の神様も、この花を見れてるかな?こんなに可愛い」 『きっと、見ておいでると思うわ。ここの花々も木々も本当に綺麗だもの、神様も喜んでるはずよ』 『さぁ、暗くならないうちにお参りをしましょうね。今夜は春ちゃんがハンバーグを作ってくれるのよね、春の料理はとても美味しいから楽しみだわ』 「任せといてよ、とびっきり美味しいハンバーグ作るからね!」 柔らかで賑やかな二人の笑い声と足音が拝殿はいでんの方へと遠ざかるのを聴きながら、白い手が伸ばされて椿の花々にそっと触れる。 その白い手の持ち主の周りをふわり と薄紅色うすべにいろ花弁はなびらが静かに舞う。 「…本当に美しく咲きましたね……」 春風になびかせた黒髪を片手で抑えながら可憐かれんな横顔の女性が花に話しかける。 応えるように、さわさわっと花々が揺れる。
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