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下から出て来たのは、目を閉じた若い女だった。仰向けに横たわり、頬に血色はない。薄く開いた乾いた唇にも、まぶたをとじた落ちくぼんだ眼窩にも生気はなかった。ベージュのニットワンピースには乱れはなく、両手は胸の上で組んである。薬指にはシルバーの指輪をしていた。 首には青紫の痣が一周している。 グリーンは「うんうん」と軽快にうなずいた。 「キレイな状態です。これ以上のぞむものがないぐらい」 ブルーが遺体のそばに落ちていた皮のベルトを拾い上げ、ビニール袋に納めている。 「今回の件は特例で、この方はご家族のもとへお返しすることになっているのです。この程度ならで充分です。なんら問題ありません」 グリーンはゴム手袋をつけた手で、遺体の頭を持ってのぞき込むように観察している。 「頭が吹き飛んでたり、野犬に齧られたりしてぐちゃぐちゃだったらどうしようかと思いましたが杞憂でしたね。良かった良かった」 ご機嫌なサムズアップを繰り返している。 「男のほうはまだ見つけられていないんだが」 今回俺たちが受けた仕事は人探しだった。 探していたのは一組のカップルだった。 梶さんを経由して、掃除屋からの依頼ははじめてのことだ。彼らの持つ情報が事前に提示されていたため、聞き込みと痕跡をたどれば片付くと思っていたが、この場所を見つけるのに時間がかかってしまった。明石が目ざとく気づかなければ、いまでも探し回っていただろう。     
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