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「もしかしたら近くにいるかも知れません。あとで周囲の木や斜面、崖の下を見てみます」
そもそも、掃除屋からの依頼という時点で、生きていることを前提にしていなかったのは薄々わかってはいたことだ。
「“彼ら”に連れ戻されている可能性もありますね」
グリーンは女の首元を流れるネックレスをすくいあげた。ゴールドのコインのようなチャームには、手をつないだ人が刻印されている。
チラシまみれの電柱や落書きだらけの駅前、汚れた高架下のポスターによく見かけるデザインだった。
「これは“救済の友”という新興宗教団体のメンバーを示すものです。“和の庭”と呼ばれる施設で教義に則った共同生活をしています。この方たちは脱会するため、そこから逃げ出し、追われていたそうです」
「逃げきれないと悟って、自分で恋人を殺したってのか」
なんのために逃げ出したのかと考えると、その選択はやりきれない。
「事実かどうかはわかりませんよ」
「でも、これやったやつはあれやんな、敬意をはらって遺棄しよんな」
レッドが女にかけられていたコートのポケットを探りながら、そんなことを言った。内ポケットにも手がかりはなかったらしく、男物のそのコートを丁寧に畳んでビニール袋にいれた。
グリーンも静かにうなずいた。
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